夜行急行アルプス号の歴史|新宿~松本・信州を結んだ中央東線の夜行列車

急行アルプス

急行アルプスAIイメージ画像

1.概要

 急行「アルプス」は、国鉄・JR東日本が新宿駅を起点に中央本線・篠ノ井線・大糸線方面へ運転した優等列車である。

 「アルプス」は昼行・夜行の双方が設定され、特に夜行列車は中央東線沿線の登山客や観光客に利用された。

 その歴史は戦後間もない1948年に設定された夜行準急にまでさかのぼり、1951年には「アルプス」の愛称が付けられた。当初は寝台車を連結した客車列車であったが、1960年代に入るとキハ55系・キハ58系気動車、さらに165系電車が投入され、中央東線を代表する優等列車へ発展した。

 一方、1966年には特急「あずさ」が登場。昼行「アルプス」は次第に特急へ格上げされ、1986年11月には昼行「アルプス」が全廃された。

 夜行「アルプス」はその後も残り、183系・189系電車へ変更されながら運転を続けた。しかし夜行需要の減少により2002年12月1日に廃止され、後継として夜行快速「ムーンライト信州」が登場した。


2.中央東線と夜行列車

 中央東線は新宿から甲府、松本方面へ向かう路線で、沿線には八ヶ岳、南アルプス、北アルプスなどの山岳地帯が広がっている。

 そのため戦後になると、週末を中心に登山客が利用する夜行列車が多数設定されるようになった。

 1950年には新宿~長野間に夜行普通列車が1往復設定され、そのほか甲府・上諏訪・河口湖などへ向かう臨時夜行列車も設定された。

 特に下り列車は週末の登山客が集中したため設定本数が多く、新宿から夜行列車で山梨・長野方面へ向かい、帰路は昼行列車を利用するという行動パターンが形成されていた。

 新宿~長野間の425列車は登山客に多く利用されたことから「山男列車」の愛称で呼ばれていたという。

 こうした登山需要が、後の夜行「アルプス」を支えることになる。


3.「アルプス」の登場

 1948年7月には中央東線で夜行準急列車が設定され、1951年4月15日には407・408列車に「アルプス」の愛称が付けられた。

 当初の「アルプス」は新宿~長野間を結ぶ夜行列車で、客車を使用していた。

 1950年代には寝台車も連結され、1956年にはナハネ10形三等寝台車、1958年にはナロハネ10形二等・三等合造寝台車が組み込まれるなど、中央東線の夜行列車として充実した設備を備えていた。

 この時代の「アルプス」は、単なる終列車・始発列車ではなく、夜行で信州へ向かうための本格的な長距離優等列車としての性格を持っていた。


4.昼行「アルプス」の発展

 「アルプス」は夜行だけでなく、昼行列車にも愛称が広がっていった。

 1960年4月25日にはキハ55系気動車による新宿~松本間の急行「第1アルプス」「第2アルプス」が設定された。

 その後、キハ58系の投入や電化の進展に伴って165系電車も使用されるようになり、1960年代後半には昼行「アルプス」が多数設定されるようになった。

 1968年10月のヨンサントオ改正では中央東線の優等列車の愛称整理が行われ、「白馬」「上高地」「穂高」などの列車が「アルプス」に統合され、昼行「アルプス」は多数の列車が運転される大規模な急行列車群となった。

 つまり「アルプス」は、1950年代には夜行列車を中心とした愛称だったものが、1960年代には中央東線の代表的な昼行・夜行急行を総称するような列車名へ発展したのである。

1980年10月1日ダイヤ改正現在夜行急行アルプス編成表
夜行急行アルプス17号・8・14号 新宿~南小谷 165系 所属 松本     
←新宿 南小谷→
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
指定 指定 グリーン グリーン 自由 自由 自由 自由 自由 自由 自由 自由
※1 1~8号車は新宿~松本間
※2 アルプス17号は夜行列車。松本~南小谷間は普通列車
※3 アルプス8・14号は南小谷~信濃大町間は普通列車
夜行急行アルプス15・18号 新宿~南小谷・信濃森上 165系 所属 松本     
←新宿 南小谷→      
  1 2 3 4 5 6 7 8      
荷物 指定 指定 グリーン グリーン 自由 自由 自由 自由
※1 荷物車は新宿~松本間連結
※2 アルプス15号は昼行列車。新宿~信濃森上間運転
※3 アルプス18号は夜行列車。新宿~南小谷間運転

5.特急「あずさ」の登場と昼行「アルプス」

 「アルプス」の歴史を語る上で重要なのが、1966年12月12日に登場した特急「あずさ」である。

 「あずさ」は新宿~松本間を結ぶ特急列車として運転を開始し、中央東線の主要都市間輸送を担うようになった。

 その後、「あずさ」の増発に伴って昼行急行「アルプス」は徐々に整理されていった。

 1960年代後半には多数運転されていた昼行「アルプス」も、特急「あずさ」の勢力拡大によって存在意義が次第に縮小していった。

 1970年代には特急「あずさ」と急行「アルプス」が並行して運転されていたものの、1980年代になると急行列車の整理が進んだ。

 1986年11月1日の国鉄最後の大規模ダイヤ改正では、昼行「アルプス」が「あずさ」に格上げされ、昼行急行としての「アルプス」は消滅した。


6.夜行「アルプス」は生き残る

 昼行「アルプス」が特急「あずさ」に統合されていく一方、夜行「アルプス」は運転を継続した。

 これは、昼行列車とは異なる需要が存在していたためである。

 特に登山客にとって、夜間に新宿を出発して早朝に山梨・長野方面へ到着できる夜行列車は利便性が高かった。

 1980年代には中央自動車道を経由する高速バスも発達していたが、夜行「アルプス」は大量輸送が可能で、中央東線沿線の複数駅に停車できるという鉄道ならではの利点を持っていた。

 こうして1986年以降は、「アルプス」という愛称が夜行列車だけに残ることになった。


7.165系から183・189系へ

 1986年11月の昼行「アルプス」廃止に伴い、夜行「アルプス」の使用車両も変更された。

 それまで使用されていた165系電車から、特急「あずさ」と共通運用となる183系・189系電車へ置き換えられた。

 これにより、夜行「アルプス」は急行列車でありながら、特急「あずさ」と同じ系列の車両を使用するという特徴を持つようになった。

 また、国鉄末期からJR発足後にかけては、車両の共通運用によって効率化を図りながら、夜行列車としての運転を維持していた。

1986年11月1日ダイヤ改正現在夜行急行アルプス編成表
夜行急行アルプス1・3号・2号 新宿~南小谷 183系 所属 松本
←新宿 南小谷→
1 2 3 4 5 6 7 8 9
自由 自由 自由 自由 自由 グリーン 指定 指定 指定
※1 アルプス1号は信濃森上~南小谷間は普通列車
※2 アルプス3号は季節臨時列車
※3 1号車自由席、9号車指定席は禁煙車

8.臨時急行「アルプス91号」と寝台車

 夜行「アルプス」には、定期列車だけでなく臨時列車も設定された。

 1988年4月には、白馬行きの臨時急行「アルプス91号」が運転を開始した。

 この列車は14系座席車4両に14系寝台車2両を連結した編成で、新宿から白馬まで運転された。時期によっては千葉始発に延長されることもあり、1992年8月までシーズン中に運転された。

 定期「アルプス」が電車による夜行列車だったのに対し、臨時「アルプス91号」では14系寝台車を組み込んだ客車編成が登場したことが特徴である。

 これも中央東線の登山・観光需要の大きさを示すものだった。


9.夜行「アルプス」の終焉

 JR発足後も夜行「アルプス」は運転を続けたが、夜行列車を取り巻く環境は次第に厳しくなった。

 高速道路網の整備、高速バスの発達、新幹線や特急列車による昼間の高速輸送などにより、夜行列車を利用する需要は減少していった。

 また、登山客にとっても交通手段の選択肢が増え、かつてのように夜行列車が信州への主要な移動手段ではなくなっていった。

 そして2002年12月1日のダイヤ改正で急行「アルプス」は廃止された。

 その代わりに新宿~白馬間で夜行快速「ムーンライト信州」が運転を開始し、夜行「アルプス」の役割を引き継いだ。


10.「ムーンライト信州」へ

 「ムーンライト信州」は2002年12月に登場した夜行快速列車で、主に新宿~白馬間を結んだ。

 車両には183系・189系などが使用され、全車指定席で運転された。

 夜行「アルプス」が急行列車として運転されていたのに対し、「ムーンライト信州」は快速列車とすることで、特急料金・急行料金を必要としない夜行列車として設定された。

 「ムーンライト信州」は2018年まで運転され、同年12月30日の運転を最後に終了した。これによって、中央東線を定期的に走る夜行列車の歴史はいったん途切れることになった。


11.現在の「アルプス」

 「アルプス」の愛称は夜行急行の廃止後も完全に消滅したわけではない。

 2024年7月には、JR東日本が新宿~白馬間で臨時特急「アルプス」の運転を開始した。

 2024年以降、季節ごとに数日程度設定される臨時列車で、E257系を使用し、全車指定席として運転されている。2026年にはE353系による運転も行われている。

 かつての「アルプス」は夜行急行として信州へ向かう登山客を運んだが、現在は臨時特急として、その愛称が再び中央東線・大糸線を走っている。


12.まとめ

 急行「アルプス」は、中央東線の山岳輸送を象徴する列車であった。

 1948年に設定された夜行準急を起源とし、1951年には「アルプス」の愛称が付けられた。当初は寝台車を連結した客車による夜行列車だったが、1960年代にはキハ55系・キハ58系・165系へと使用車両が変化し、昼行列車も多数設定されるようになった。

 1966年に特急「あずさ」が登場すると昼行「アルプス」は次第に縮小され、1986年には昼行列車が全廃された。

 一方、夜行「アルプス」は登山客を中心とした需要から運転を継続し、165系から183系・189系へ車両を変更しながら2002年まで運転された。

 その後は「ムーンライト信州」に引き継がれたが、それも2018年に終了。2024年からは臨時特急「アルプス」として愛称が復活している。

 「アルプス」は、中央東線の登山輸送を背景に生まれ、昼行急行から夜行急行、夜行快速、そして現在の臨時特急へと姿を変えながら、70年以上にわたって信州への輸送を象徴してきた列車名である。

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