6.アーバンネットワーク失速~福知山線事故・ゆとりダイヤ実施~
2005年3月1日ダイヤ改正では、データイムの新快速のうち毎時1本を姫路以西播州赤穂まで延長運転するようになった。同時に山陽本線普通の運行体系を変更して、姫路~播州赤穂間の赤穂線直通と相生~上郡・岡山間の山陽本線普通に運行体系を二分して、赤穂線の強化を図った。
2005年4月25日に起きた福知山線事故で、JR宝塚線がしばらく運休することを受け、JR宝塚線直通の普通は大阪もしくは尼崎止まりとして運転された。これは6月19日の同線復旧まで続いた。また、同線開通後のダイヤ修正で車両不足の発生及びATS-P設置に伴う車両転配が行われ、JR東日本から急遽103系8両を購入した。この103系は一時期本線での運用も見られた。117系と113系の振り替えも行われ、ATS-P型を装備する113系がJR宝塚線運用についたため、京都以西で久しぶりに本線で113系の姿が見られるようになった。
2005年10月1日改正では、京都~南宮崎間の寝台特急彗星が廃止になり、彗星に代わってなはが京都~鳥栖間であかつきと併結運転を行うようになった。これにより関西発着の九州ブルトレは1往復体制となった。同改正ではこれ以外に動きはなかったが、2005年12月1日より新型通勤電車321系の営業運転が開始された。同車は201系を置き換えるために本線に投入された207系以来の通勤型形式で、電動車は全て0.5M仕様として7両編成中6両を電動車としている。当初は同車と207系を使って普通でも120km/h運転を行う高速化が検討されていたが、福知山線事故の反省からダイヤにゆとりを持たせるように方針が変わったため、普通電車の常時120km/h運転というのは実現しなかった。ただし、地上設備、車両側ともに120km/h運転には対応しているので、遅延時などには120km/h運転ができるようにはなっている。
2006年3月18日ダイヤ改正では、JR西日本全域に渡って、福知山線事故の反省からゆとりダイヤが実施された。停車時分の見直しや余裕時分の見直しなどが行われ、新快速も含めて各所で所要時分の延長が行われた。これにより新快速は京都~大阪間は28分運転となり、大阪では2分弱の停車時分が持たれ、大阪~三ノ宮間も21分に所要時分が延びた。所要時分、停車時分が延びたことにより京都駅では0・15・30・45分のきっかり発車が復活した。ゆとりダイヤでは停車時分や余裕時分が見直され、通常時での遅れの軽減にはなった。しかし、ゆとりという言葉を使ってコスト削減的な減量ダイヤも行っており、本線でも普通が京都~西明石間の運転から京都~須磨間の運転に縮小された。大和路線でも普通の運転区間短縮が行われているが、これらは確かにデータイムの需要としては輸送力過剰というところもあったので、運転の見直しを行ったということも言える。しかし、根本的には車両運用に余裕がないため、ダイヤ自体を削らざるを得なかったという苦しい台所事情がある。新快速については車両を増備して運転区間の縮小などは行っていないが、普通に関しては2008年3月15日改正で321系の運用を見直すまでは何も手付かずのまま推移して行った。
2006年10月21日ダイヤ改正で、JR北陸本線長浜~敦賀間、JR湖西線永原~近江塩津間の直流電化が開業した。従来交流電化だったのを直流電化にして、京阪神から電車を直通させる方式は1991年に同じ北陸本線の米原~長浜間で実施しており、そこでの成果を元に敦賀までの直流化が実現した。新快速のうち湖西線近江今津止まりで運転されていた電車を敦賀まで延伸し、長浜止まりの新快速2本のうち1本を近江塩津行きとして、湖北及び敦賀方面へ直通する新快速を毎時1本設定した。3月の改正で新快速は以前よりも若干遅くなっていたが、それでも京阪神まで直通で利用できるため、敦賀などからどれだけの利用があるか注目された。当初は企画切符などの効果や開業フィーバーも手伝い、近江今津以北4連で運転される新快速は立ち客も出るほどの盛況だったが、開業後1年の利用者は全体で微増と言ったところで、自治体が期待したほどの伸びはなかった。近江今津や米原で増解結作業を行うため、そこでのロスが大きく、新快速が米原、近江舞子以遠各駅に停まるため、所要時分が長いということも利用の伸びに影響しているのではないかと思われる。それ以前に沿線人口が少ないということもあると思われ、巨額な投資をした割には効果が少ないということが一番なのではないかと思われる。JR西日本としてはほとんどが自治体出資の事業のため痛くもかゆくもなく、おまけに敦賀で直流と交流を分けることにより、今後予想される北陸新幹線開業後の車両施策にある程度の目処が付けられるようになり、大きなプラスはなくともマイナスにはなっていないだろう。近年法制度の改善により、上下分離方式などを採用して、下は国や地方自治体、上は鉄道会社という方式で鉄道事業を推進していくケースが増えているが、北陸本線直流化のように自治体へのメリットが少なく、JRへのメリットが大きいという事業ばかりでは財政難の国や地方自治体から制度の改正を求められる可能性もあり、納税者も黙ってはいられないだろう。地球環境など大きな視点で見れば鉄道への投資は金はかかっても行っておくべきではある。しかし、それが利用者に還元されなければ何も意味はない。北陸本線の直流化に関しては地方自治体は造っただけに終わらず、今後もJRに対して口を出していき、ダイヤの改善などを積極的に要望していくべきだろう。
2007年3月18日ダイヤ改正では、JR神戸線西ノ宮駅が西宮駅に改称され、西宮~芦屋間にはさくら夙川駅が開業した。阪急神戸線夙川、阪神本線香櫨園と競合する駅ということで、同駅の開業前に阪急、阪神ともに2006年10月28日にダイヤ改正を実施した。阪急は特急を夙川に終日停車させ、阪神は朝ラッシュ時の区間特急を香櫨園に停車とした。対するJRはさくら夙川駅には普通のみを停車させ、芦屋より1駅東にあるため新快速、快速との緩急接続もできないため、所要時分では阪急を苦しめるというところまでには至っていない。阪急も特急の停車駅を増やしたものの、ATSの改良と神崎川~西宮北口間での115km/h運転による所要時分の短縮を行っており、JRを追撃する姿勢を見せていた。
なお、2007年3月17日には阪急京都線でダイヤ改正が行われ、特急の淡路停車と通勤特急の長岡天神、桂停車が実施された。急行の準急化も行われており、データイムダイヤでは特急・急行の2本体制でJRに対抗するダイヤから、特急1本で対抗するようなダイヤに移行した。特急の淡路停車は堺筋線・千里線方面との乗り継ぎの強化のためと思われるが、肝心な対梅田輸送では所要時分などで一歩後退した感があり、桂までは快速急行(以前の急行)と全く同じ停車駅となった。高槻市ではJRに数でも時間でも圧倒されていた阪急京都線も茨木市では特急の停車により何とか対抗できるだけの戦力が整っていたが、特急の淡路停車により所要時分ではJRの快速に劣り、特急をフォローする準急は優等列車というより隔駅停車という性格の列車のため正直使い物にならない。この改正でデータイムダイヤをあえて障る必要があったのかどうか疑問が残るところだ。また、阪急はラッシュ時ダイヤも大きく変えてきており、朝夕ラッシュ時に先述した通勤特急を運転し、堺筋直通の優等を快速急行・急行から準急へと変更し、朝ラッシュ時に茨木市始発の準急が復活した。朝ラッシュ時は16分サイクルになり、若干のスピードアップも行われた。夕方ラッシュ時は20分サイクルになり、梅田からは通勤特急、快速急行が10分毎に出るダイヤとなった。通勤特急が停まる高槻市、長岡天神、桂などはそれなりに便利なダイヤと言えるが、通勤特急が停まらない茨木市については快速急行が20分毎となり、それをフォローするのが隔駅停車の準急となっており、以前のダイヤよりも大きく不便になった。堺筋準急も淡路で快速急行と接続するダイヤになり、茨木市止まりという中途半端な設定になった。阪急京都線は2007年3月改正で全体的に迷走した感もあり、JRにとってはプラスに向く方向にはあったと思われる。
JRの方もダイヤの方はほぼ完成系に近づいており、打つべき策はほぼ打ち尽くした感があった。JRでは異常時の復旧の遅さや人身事故などによる遅延の増加が問題になっていた。異常時の復旧については福知山線事故や塚本での救急隊員が轢かれた事故などが原因で、事故時には細心の注意を払って復旧するということからちょっとしたことでもすぐに全列車を止めるようになり、悪循環に陥っているように思われる。人身事故については防ぎようがないところもあるが、踏切の安全強化や立体化、駅ホームへのホームドアの設置などで対処するしかないだろう。上記の点については安全面にかかわるところなので、利用者としては細心の注意を払って復旧することに対しては異論はない。しかし、事故後数時間もダイヤが乱れっぱなしで、終日ダイヤが乱れるという事態は何とかして欲しいものだ。とりわけ事故が重なったり、悪天候などで不通区間が発生した時のJRの対処は私鉄に比べてかなり弱い印象を受ける。ダイヤの乱れが各線に波及するのは直通運転を広域的に行っているので、ある意味では仕方ないところもあるが、異常時にはダイヤを分断して、地域輸送を優先させるという処置も必要だろう。とりわけ本線についてはJR京都線・琵琶湖線とJR神戸線が一体になっており、さらにJR宝塚線との結びつきが強い。東の端の米原で事故が起きれば西の端の網干、さらには播州赤穂や上郡まで遅延や運休が発生し、JR宝塚線にも影響が及ぶ。電車が直通している以上仕方ないところだが、利用者としては自分と全く関係のないエリアでの事故により、大きな影響を受けるというのは納得がいかないところもある。本線の場合、一時的なダイヤの混乱に終わらず、各所で多重的に事故が発生し、終日に渡って遅延することも間々ある。折り返し運用に余裕がないため、折り返し電車に遅延が波及して、当該地域では遅延が回復しているのに、折り返し地点での反対側の地域では遅延が増大しているというケースが多い。大阪、京都、三ノ宮の京阪神主要3駅では長年スルー運転を行ってきた実績からか、優等列車以外の折り返しについては無頓着なところがあり、折り返し線や電留線がなかったり余裕がなかったりしている。大阪には宮原、京都には向日町(京都総合車両所)という西の横綱と言える車両基地が控えているが、どちらも長距離輸送主体の車両基地で、近年はそれに加えて宮原はJR宝塚線、京都はJR嵯峨野線、JR湖西線などの基地にもなっており、本線の面倒を見れるほどの余裕はない。とはいえ、大阪や京都、さらには神戸あたりでダイヤを分断できるような設備がなければ、異常時のダイヤ修復は今のままになってしまう。京都は西側に京都総合車両所もあり、電留線も何本かあるので、琵琶湖線・湖西線列車を京都折り返しとすることは可能だろう。東側に目を向けると折り返し線は1本しかなく、京都止まりの普通は下りホームで折り返している。京都から先、琵琶湖線を見渡しても折り返し設備は草津までない。琵琶湖線が不通になった時の処置を考えて京都の東側での折り返し設備の増設を考えなければならない。大阪では宮原を活用すれば折り返し列車は多数設定が可能だ。宮原はJR宝塚線の電車が主に所属しているのであまり余裕はないだろうが、今でも大阪始発の新快速のために本線の電車が留置されていたりするので、何本か宮原に予備編成を置くことはできるのではないか。それが出来なければ折り返しは宮原を活用して、予備編成は他に置くことになる。高槻は有力だが、緩行線電車でほぼ一杯だからあまり使用できない。他に留置線はないが、吹田には旧国鉄の土地が腐るほど残っている。一部貨物ターミナルへの転用に利用されるが、JR西日本も一部土地を買い取って留置線を設けて、ここに予備編成を置いておけばよい。留置線の増設などは金儲けのタネにもならない不採算事業と言えるが、振り替え輸送実施などによる私鉄への利用者流出を防ぐには打っておかねばならない施策と言える。
2008年3月15日ダイヤ改正では、JR京都線山崎~高槻間に島本、JR神戸線鷹取~須磨間に須磨海浜公園、JR山陽本線英賀保~網干間にはりま勝原の3駅が開業した。このうち島本は阪急京都線水無瀬と競合しており、須磨海浜公園は山陽電鉄本線月見山と競合している。阪急は2007年3月にダイヤ改正をしているが、島本対策は表立って行われなかった。むしろまだ開業していないJR桂川対策に躍起になっていた感があった。それだけ島本・水無瀬ともに絶対数が多くないと言える。山陽電鉄の須磨海浜公園対策は、駅開業から1年遅れて2009年3月20日ダイヤ改正で、直通特急を月見山に停車させた。同改正ではJR神戸線から東西線直通する普通に321系が運用されるようになり、京都~須磨間の普通の一部が西明石発着に戻された。詳細は分からないが筆者の推測では321系と207系の一部の運用を共通化することにより両系列の運用に余裕が生まれ、京都~須磨間の普通を2本に1本西明石まで延長できるようになったものと思われる。また、夜行列車の廃止も行われ、関西から九州へ向かう夜行列車のあかつき・なは、日本海縦貫線夜行の日本海2・3号、東海道夜行の銀河の3往復が廃止された。これで関西地区に残る夜行列車は大阪~青森間の日本海と大阪~札幌間のトワイライトエクスプレスのみとなり、この時点で、純粋なブルートレインと呼ばれる列車は日本海のみとなった。