近鉄志摩線の現状と将来展望|特急と普通列車の役割、人口減少時代の地域輸送を考える
1.はじめに
近鉄志摩線は、鳥羽から賢島までを結ぶ全長24.5kmの路線である。
近鉄の路線網の中ではローカル線に位置付けられる路線だが、一般的なローカル線とは少し事情が異なる。伊勢志摩という全国的な観光地を走り、大阪・京都・名古屋方面から賢島まで直通する特急列車が多数運転されているためである。
一方、沿線の人口は少なく、普通列車しか停車しない駅の利用者は非常に少ない。近年は普通列車の減便も進み、現在では日中を中心に毎時1本程度の運転となっている。
つまり志摩線は、
「地域輸送は非常に厳しいが、観光・広域輸送には一定の需要が存在する」
という、一般的なローカル線とは異なる特徴を持つ。
実際に志摩線を乗り通してみると、駅によって利用状況が大きく異なる一方、特急列車は大阪・京都・名古屋方面から伊勢志摩へ向かう重要な交通手段となっていることが分かる。
本稿では、こうした現状を踏まえ、志摩線の普通列車と特急列車の役割、伊勢志摩観光との関係、自家用車・観光バスとの競争を考察し、人口減少がさらに進んだ場合にどのような運行体系が考えられるのかを検討する。
2.特急列車が多数運転される特殊なローカル線
志摩線最大の特徴は、ローカル線でありながら特急列車が多数運転されていることである。
2026年3月14日現在のダイヤを見ると、鳥羽~賢島間では普通列車に加えて、ビスタカー、伊勢志摩ライナー、アーバンライナー、観光特急しまかぜなど、多様な特急車両が乗り入れている。
例えば平日の鳥羽駅では、日中にも特急が多数設定されており、普通列車が毎時1本程度となる時間帯でも、特急列車そのものは複数運転されている。鵜方や志摩磯部でも、普通列車と特急列車が並行して運転されている時間帯が多い。
これはJRの一般的なローカル線とは大きく異なる。
通常のローカル線では、利用者減少に伴って普通列車を減らすと、路線そのものの利便性が低下していく。しかし志摩線では、普通列車を減らしても、伊勢志摩観光という別の需要を背景に特急列車を維持できる余地がある。
この点は、志摩線が持つ大きな強みである。
3.普通列車の利用は極めて限定的
一方で、普通列車を利用する地域住民の需要は決して大きくない。
近鉄が公表している2025年11月11日の駅別乗降人員を見ると、志摩線の駅には極端に利用者の少ない駅が並んでいる。
| 駅 | 1日乗降人員 |
| 中之郷 | 154人 |
| 志摩赤崎 | 221人 |
| 船津 | 64人 |
| 加茂 | 48人 |
| 松尾 | 84人 |
| 白木 | 15人 |
| 五知 | 14人 |
| 沓掛 | 7人 |
| 上之郷 | 91人 |
| 志摩磯部 | 464人 |
| 穴川 | 37人 |
| 志摩横山 | 116人 |
| 志摩神明 | 242人 |
| 鵜方 | 1,976人 |
| 賢島 | 970人 |
近鉄「駅別乗降人員」より。
特に白木15人、五知14人、沓掛7人、加茂48人などは、駅として非常に小規模な利用状況である。
ただし、ここで志摩線の駅を一括りにしてはいけない。
鵜方は1,976人、賢島は970人、志摩磯部は464人であり、その他の駅とは明らかに利用規模が異なる。
特に注目したいのが志摩磯部である。
464人という数字は近鉄全体から見れば決して大きな駅ではない。しかし志摩線の普通停車駅だけを比較すると、志摩神明242人、志摩赤崎221人、志摩横山116人、上之郷91人などを大きく上回っており、普通停車駅の中では明らかに一段上の利用規模を持つ駅である。
したがって志摩線は、
- 鳥羽・鵜方・賢島=広域・観光拠点
- 志摩磯部=一定の地域需要を持つ拠点駅
- その他の小駅=非常に小規模な地域輸送
という、少なくとも3層の需要構造を持っていると考えられる。
4.普通列車は「地域輸送」が中心だが、実際には特急停車駅間の利用も多い
志摩線の普通列車を考える際に重要なのは、普通列車の利用者すべてが「小駅を利用する地域住民」ではないことである。
普通列車を利用する高校生などの通学輸送は、もちろん重要な役割を担っている。しかし、それ以外の利用では、鳥羽・志摩磯部・鵜方・賢島など、比較的利用者の多い駅を相互に利用するケースも少なくない。
つまり、普通列車の利用動向は、
「小駅から中心駅へ向かう地域輸送」
だけではなく、
「特急停車駅同士を移動する近距離輸送」
という側面も持っている。
このため、志摩線の普通列車を単純に「小駅のためだけに走らせている」と考えるのは適切ではない。
一方で、小駅の利用が極端に少ないことを考えると、普通列車を現在の形で維持し続けることが将来的にも最適なのかという問題は残る。
5.伊勢志摩観光という大きな需要がある
志摩線を他のローカル線と比較する際、最大の違いは「伊勢志摩」という強力な観光地を沿線に持つことである。
近鉄は長年にわたって伊勢志摩の観光開発を進めており、1994年には志摩スペイン村が開業するとともに、伊勢志摩ライナーの運転を開始した。
近鉄グループによれば、志摩スペイン村はリゾート法の施行を契機とした伊勢志摩開発の中核プロジェクトとして計画され、志摩市磯部町の社有地に複合リゾートとして建設された。テーマパークだけでなく、ホテルや温泉を含む滞在型リゾートとして整備されたものである。
また、1994年の伊勢志摩ライナー運転開始は、志摩スペイン村の開業と同時期であり、大阪・名古屋と伊勢志摩を結ぶ観光輸送の強化という意味でも重要だった。
現在も志摩スペイン村は近鉄特急と組み合わせた観光輸送の重要な目的地であり、鵜方駅から直通バスで約13分というアクセス体系が構築されている。
6.志摩スペイン村はなぜ駅前ではなく現在地に作られたのか
ここは志摩線の将来を考えるうえで興味深い問題である。
現在、志摩スペイン村へ鉄道で向かう場合は、
近鉄特急
↓
鵜方駅
↓
三重交通バス
↓
志摩スペイン村
という乗り継ぎになる。
鵜方駅から志摩スペイン村までは直通バスで約13分、現在の運賃は大人500円である。
一方、自家用車の場合は、テーマパークの大規模駐車場を利用できる。
志摩スペイン村が駅前に立地していれば、鉄道利用者にとっては非常に便利だっただろう。
しかし、当時の開発思想を考えると、現在地に建設されたことにも合理性がある。
志摩スペイン村は単なる駅前遊園地ではなく、伊勢志摩の自然環境を生かしたテーマパーク・ホテル・温泉による複合リゾートとして計画されたからである。近鉄自身も「滞在型リゾート」としての開発を進めていたことを説明している。
したがって、
「なぜ駅前に作らなかったのか」
という問いに対しては、鉄道アクセスだけではなく、広大な土地を一体的に利用するリゾート開発という目的があったと考えるべきだろう。
ただし、その結果として、現在の志摩線は観光輸送の最後の区間でバスを介在させる構造になっている。
ここには、自動車・観光バスと鉄道が競争するうえでの弱点がある。
7.自家用車・観光バスに対して近鉄特急は有利なのか
大阪・京都・名古屋から伊勢志摩へ向かう場合、近鉄特急には大きなメリットがある。
運転する必要がなく、乗り換えなしで伊勢志摩まで移動できる。また、伊勢志摩ライナーやしまかぜなど、観光そのものを目的とした車両も存在する。
一方、鳥羽以南の志摩線では線形が厳しく、特急列車であっても高速運転を続けられる区間ではない。
近鉄特急の強みは「速さ」だけではないものの、伊勢中川以北と比較すると志摩線内の走行速度は低く、道路環境が整備されている現在、自家用車や観光バスに対する時間面での優位性は小さくなる。
特に自家用車なら、
目的地まで直接行ける
という強みがある。
鉄道の場合は、
特急→鵜方→バス→志摩スペイン村
となるため、家族旅行など荷物の多い利用者にとっては、自動車の方が便利になる場合もある。
したがって志摩線の将来を考える際には、
「特急をもっと速くする」
だけではなく、
「鉄道を利用すること自体を観光商品としてどう魅力的にするか」
という視点が重要になる。
8.それでも志摩線には「特急」という大きな資産がある
ここが、志摩線が一般的な赤字ローカル線とは大きく異なるところである。
志摩線には、すでに大阪・京都・名古屋方面から直通する特急網が存在する。
普通列車を1本増やすには、車両・乗務員・電力・駅設備などのコストが必要になる。
しかし特急は、もともと広域輸送のために運転されている。
そこで考えられるのが、
「特急車両を地域輸送にも活用できないか」
という発想である。
これは、普通列車をすべて廃止して特急だけにするという単純な話ではない。
むしろ、
普通列車の需要が特に少ない時間帯に限り、特急列車を地域輸送にも利用する
という考え方である。
9.将来的には「特急による普通列車代替」も選択肢になり得る
例えば、将来さらに沿線人口が減少し、普通列車の利用が現在より低下した場合、朝夕の通学・通勤時間帯は普通列車を維持し、それ以外の時間帯については特急を中心とした輸送体系へ移行する方法が考えられる。
これはJRの閑散ローカル線で見られる「朝夕のみ列車を確保し、日中は別の交通手段に転換する」という発想とは少し違う。
志摩線の場合は、
「普通列車をなくす代わりに、すでに走っている特急を地域輸送にも使う」
という点が特徴になる。
もちろん、普通列車しか停車しない駅に特急を停車させる必要があるため、特急列車本来の速達性は低下する。
また、特急料金をそのまま徴収すれば、地域住民にとっては利用しにくい。
したがって、この方式を実施するには、
低額な追加料金による地域利用
と、
チケットレスによる簡便な料金収受
がセットになる。
10.「鳥羽で4両+2両」に分割するという考え方
さらに具体的な運行方式として考えられるのが、現在も多く見られる6両編成の特急を活用する方法である。
例えば大阪難波方面から6両編成で運転される特急について、
鳥羽まで6両
↓
鳥羽で4両+2両に分割
↓
前4両=通常の特急として賢島方面へ
後2両=区間輸送用の列車として賢島方面へ
という運転方式である。
後部2両については、特急車両を使用しながら、鳥羽~賢島間では各駅停車とする。
これなら、特急車両そのものを地域輸送に利用できる。
ただし、この方式には大きな問題がある。
各駅停車となった2両についても、原則として特急料金が必要になるため、地域輸送としては高すぎる。
そこで、
鳥羽~賢島間だけ低額な区間料金を設定する
ことが考えられる。
例えば数百円程度の料金とし、普通運賃に低額な着席・指定料金を加える方式なら、普通列車に近い感覚で利用できる可能性がある。
ただし、これはあくまで将来の一案であり、実際の運賃・料金制度、車両運用、分割・併結作業などについては詳細な検討が必要である。
11.鳥羽~賢島間を「すわれ~る」のような方式にできないか
近鉄には現在、スマートフォンから当日でも予約できる有料座席指定サービス「すわれ~る」がある。また、特急券についてもインターネット予約・発売によるチケットレスサービスが整備されている。
この仕組みをさらに発展させ、
鳥羽~賢島間の区間利用専用の低額な着席サービス
を設定することが考えられる。
例えば、
普通運賃+低額な「すわれ~る」料金
という形であれば、特急車両を使用しながら、通常の特急料金よりも安価に利用できる。
この方式なら、駅に新たな券売機や特急券発売設備を設置する必要性を抑えられる。
また、スマートフォンで購入・予約する方式に限定すれば、車内で現金精算を行う必要もなくなる。
これは将来的なワンマン運転との相性も比較的良い。
12.ネット決済専用なら長距離からの直通利用も考えられる
さらに面白いのが、チケットレス方式を徹底することである。
例えば大阪難波や京都、近鉄名古屋などから志摩線の普通停車駅まで利用する場合、
「大阪難波→○○駅」
という一つのネット決済商品を設定することも理論上は可能になる。
ただし、ここには誤乗の問題がある。
大阪方面から乗車した利用者が、前4両の通常特急ではなく、後部2両の区間輸送車両に乗ってしまえば、鳥羽以南で各駅停車となり、所要時間が大幅に伸びる可能性がある。
特に観光客にとっては分かりにくい。
そのため、実際にこの方式を導入するなら、
後部2両は鳥羽で運転系統を完全に分離する
という考え方が分かりやすい。
すなわち、
大阪・京都・名古屋→鳥羽=通常の特急
鳥羽→賢島=各駅停車型の有料列車
とする。
大阪方面からの利用者が誤って乗り続けることを防ぎ、鳥羽で乗車区間を明確に切り替えるのである。
13.普通停車駅への直通商品には可能性がある
一方、ネット決済専用の商品として考えるなら、
大阪難波→志摩磯部
大阪難波→志摩神明
大阪難波→志摩横山
など、通常の特急停車駅ではない駅までの直通商品を設定することもできる。
この場合も、鳥羽までは通常の特急、鳥羽からは低額な区間輸送サービスという構造にする。
ただし、特急停車駅である鵜方・志摩磯部などをどう扱うかは難しい。
特に鵜方のような利用者の多い駅では、通常の特急利用者との競合や誤乗を避ける必要がある。
そのため、制度設計としては、
「普通停車駅への直通利用を可能にする一方、通常特急との競合が大きい駅では商品設定を限定する」
など、細かな工夫が必要になる。
14.ワンマン運転との両立が最大の課題
この構想の最大の問題は、料金チェックである。
車内で現金による特急料金の精算を認めれば、車掌が必要となり、ワンマン運転のメリットが失われる。
そのため、
「安い料金にする」
だけでは不十分で、
「料金収受をどう省力化するか」
までセットで考える必要がある。
したがって、このような運行方式を実現するための条件は、
- スマートフォンによる事前決済
- チケットレス乗車
- QRコードなどによる利用確認
- 車内での現金精算を原則行わない
- 鳥羽で運転系統を明確に分ける
- 必要に応じて利用者への案内をデジタル化する
といった仕組みになる。
近鉄ではすでにインターネット予約・発売サービスや「すわれ~る」が存在しているため、完全にゼロから新しい仕組みを作るわけではない。
15.志摩磯部をどう扱うか
この構想を考えるうえで、志摩磯部は微妙な位置にある。
2025年11月11日の調査で志摩磯部の乗降人員は464人であり、志摩線の普通停車駅としてはかなり多い。
一方、鵜方は1,976人であり、志摩磯部との差は大きい。
したがって、
「志摩線の普通停車駅はすべて利用が少ない」
と考えるのは正しくない。
志摩磯部は、普通列車による地域輸送を考えるうえでは、一定の優先順位を持つ駅といえる。
また、志摩スペイン村開業時には志摩磯部駅も伊勢志摩観光の玄関口として重要な役割を担った。
しかし現在は志摩スペイン村へのアクセス拠点が鵜方駅に移っており、志摩磯部と鵜方の役割には明確な差が生じている。
このことは、志摩線における「地域拠点の変化」を示す事例ともいえる。
16.志摩神明のような小駅はどうするのか
さらに利用者数が少ない駅では、普通列車の維持そのものが課題になる。
例えば志摩神明は242人であり、志摩磯部より少ないものの、沓掛7人や五知14人などと比較すれば一定の利用がある。
そのため、将来的に利用者がさらに減少した場合でも、すべての小駅を同じ扱いにする必要はない。
駅ごとに、
通学需要
高齢者の利用
周辺人口
道路交通
バスとの接続
などを分析し、輸送体系を変えていく必要がある。
これは「普通列車を全部廃止するか、全部残すか」という二択ではない。
17.「普通列車をなくす」のではなく「役割を再編する」
志摩線の将来を考える際、重要なのは「普通列車を守ること」そのものではない。
重要なのは、
沿線住民が必要な時間に移動できること
である。
そのため、
朝夕
通学・通勤輸送を中心に普通列車を確保する。
日中
利用者が少ない時間帯については、特急を活用した有料着席輸送を検討する。
観光時間帯
特急を中心に大阪・京都・名古屋からの観光輸送を確保する。
というように、時間帯によって役割を分けることが考えられる。
こうすれば、
「普通列車を減らす=サービスを全面的に低下させる」
という発想から、
「需要に合わせて列車の役割を変える」
という発想に転換できる。
18.志摩線は「四面楚歌のローカル線」ではない
この点は非常に重要である。
日本には、
- 沿線人口が少ない
- 通学需要も減っている
- 観光需要も少ない
- 特急列車もない
- 高速道路が並行する
- バスの方が便利
- 車両や施設も老朽化している
という、いわば「四面楚歌」のようなローカル線も存在する。
このような路線では、鉄道を残すための新しいアイデアを考えても、選択肢そのものが少ない。
それに対して志摩線には、
伊勢志摩という観光地
大阪・京都・名古屋からの直通特急
志摩スペイン村
賢島などの観光拠点
すでに整備されたチケットレスサービス
という資産がある。
だからこそ、
「この資産をどう地域輸送にも活用するか」
という議論が成立する。
これは志摩線の大きな強みである。
19.近鉄全体で考えると山田線・鳥羽線にも共通する問題
この問題は志摩線だけに限らない。
伊勢中川から鳥羽までの山田線・鳥羽線でも、普通列車しか停車しない駅の利用は大きくなく、特急停車駅に利用が集中する傾向がある。
つまり、
伊勢中川・松阪・伊勢市・宇治山田・五十鈴川・鳥羽
などの拠点駅を結ぶ特急輸送と、
小駅を結ぶ普通列車
という二重構造が存在する。
ただし、山田線・鳥羽線は志摩線より沿線人口が多く、通勤・通学需要も強い。
したがって、志摩線と同じ運行方式をそのまま導入できるわけではない。
志摩線は、近鉄の中でも特に、
「観光特急の需要が強い一方、地域輸送需要が薄い」
という特徴が際立っている。
20.自動車・観光バスとの競争をどう考えるか
志摩線の将来を考えるうえでは、自動車を敵として扱うだけでは不十分である。
むしろ、
「鉄道ではできないことを自動車が担い、鉄道では自動車にない価値を提供する」
という関係を作る必要がある。
自動車には、
- 目的地まで直接行ける
- 荷物を運びやすい
- 家族旅行に向いている
- 複数の観光地を自由に回れる
という強みがある。
一方、鉄道には、
- 長距離を運転しなくてよい
- 大阪・京都・名古屋から乗り換えなしで伊勢志摩へ行ける
- 特急車両そのものが旅行の魅力になる
- 渋滞の影響を受けにくい
- 移動時間を休憩・食事・会話などに使える
という強みがある。
したがって、志摩線の特急は単に「車より速いから選ばれる」必要はない。
「車を運転するより楽しい」「旅行そのものの一部になる」
という価値を高めることが重要になる。
近鉄が伊勢志摩ライナーやしまかぜなど、観光性の高い特急を投入してきたのも、こうした考え方と整合する。近鉄自身も、特急について「移動時間も旅の目的の一つ」とする方向性を示している。
21.志摩スペイン村との連携をさらに強化する
志摩スペイン村についても、単に「駅から遠い」という弱点だけを見るのではなく、鉄道と観光施設を一体化する方向が考えられる。
現在は、
近鉄特急+鵜方駅+直通バス+志摩スペイン村
というアクセス体系になっている。
これを、
大阪・京都・名古屋
↓
近鉄特急
↓
鵜方
↓
専用シャトルバス
↓
志摩スペイン村
という一つの観光商品として販売することが考えられる。
例えば、
特急券+バス+入場券
をスマートフォンで一括購入できるようにすれば、利用者にとっては「鉄道とバスを別々に利用する」という感覚を薄めることができる。
駅と観光施設が離れているという弱点を、乗り継ぎの分かりやすさと商品性で補うという発想である。
22.志摩線の将来は「廃止か存続か」の二択ではない
人口減少が続けば、志摩線の地域輸送がさらに厳しくなることは避けられない。
しかし、そこで、
「利用者が少ないから普通列車を増やせない」
と考えるだけでは解決策は見えてこない。
志摩線には特急という強力な輸送資源がある。
したがって、
普通列車
特急
チケットレスサービス
観光バス
志摩スペイン村
伊勢志摩の観光施設
を別々に考えるのではなく、一つの交通システムとして考える必要がある。
その中で、
- 普通列車を維持する区間
- 特急を活用する時間帯
- 低額な有料着席サービス
- 鳥羽での運転系統分離
- ネット決済専用商品の設定
- 観光施設との一体的な商品開発
などを組み合わせることができれば、現在とは異なる志摩線の姿も考えられる。
23.まとめ――志摩線は「弱いローカル線」だからこそ考える余地がある
近鉄志摩線は、沿線人口が少なく、普通列車しか停車しない駅の利用も極めて少ない。
一方で、伊勢志摩という強力な観光地を沿線に持ち、大阪・京都・名古屋から賢島まで直通する特急列車が多数運転されている。
この二面性こそ、志摩線の最大の特徴である。
特に2025年11月11日の駅別乗降人員を見ると、沓掛7人、五知14人、白木15人など極端に小規模な駅がある一方、志摩磯部464人、鵜方1,976人、賢島970人と、需要が集中する駅も存在する。
したがって、志摩線を単純な「利用者の少ないローカル線」と見るのは適切ではない。
むしろ、
「地域輸送は弱いが、観光・広域輸送には強いローカル線」
と考えるべきだろう。
そして、その特性を生かすなら、将来的には普通列車をすべて維持することだけが答えではない。
朝夕の通学・通勤輸送を普通列車で確保し、閑散時間帯には特急車両を活用した低額な有料着席輸送を設定する。
さらに、スマートフォンによるチケットレス決済を前提にすれば、駅に大規模な設備を設けることなく、新しい料金体系を構築できる可能性もある。
これは現時点で近鉄が計画している施策ではなく、あくまで一つの将来案である。
しかし、「特急が走っている」という志摩線ならではの資産を、地域輸送にも活用するという発想には、人口減少時代の鉄道を考えるうえで一定の可能性がある。
志摩線が今後どのような姿になるのかは分からない。
ただ、実際に路線を乗り通してみると、駅ごとの利用状況や沿線の風景、特急と普通列車の利用実態から、
「この路線は、このまま普通列車を維持するだけでいいのだろうか」
という疑問が生まれる。
その疑問から、特急と普通列車の役割を組み替えるという発想も出てくる。
志摩線は、四面楚歌のローカル線ではない。
「弱いところ」と「強いところ」がはっきりしているからこそ、これからの地方鉄道のあり方を考える材料を多く持った路線なのである。
人口減少時代の鉄道に必要なのは、すべての列車を昔と同じように残すことではなく、その路線が持っている資産を組み合わせ、利用者にとって使いやすい交通体系へ組み替えていくことなのかもしれない。
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